03. spend a strange day

「ねぇ・・・カイジさんってさ」
「んあー・・・・・?」
「いつ仕事行くの?」

朝食であるトーストを口にしつつ、アカギは何気なく尋ねた。ニュースキャスターの固い声が響くテレビの画面に表示されている時間は、普通のサラリーマンならばとっくに出かけている時間だ。カイジの身なりからしてサラリーマンのはずがないのは分かっている。しかし仕事はしているはず・・・。そう考えて質問したのだが、カイジはと言えばうっすらと嫌な汗をかきながら、少し震える手でトーストを口へ運んでいた。

「・・・無職?」
「っば・・・馬鹿!無職じゃない!」
 ―近頃はニートと呼ばれる仕事をしない人間が増えてきていて…
「・・・・・なるほど。じゃあニートなわけだ」
「たった今ニュースで聞いた事をそのまま言うな!だいたい、俺が無職だったら生活できないだろうがっ・・・!」

カイジははぁ・・・と溜息をこぼした後、ゆっくりと視線をアカギから外した。

「俺・・・人付き合いだとか・・・そういうの、苦手だから・・・夜中にコンビニのバイトをしているんだ」
「へぇ・・・・じゃあ夜は家に居ないの?」
「いや、その・・・・夜にバイトはしているけど・・・・」
「けど?」

カイジは言いづらそうに言葉を濁す。あまりその理由をアカギに言いたくなさそうだ。いつものアカギならば、そこには深く突っ込まずにいるのだが、何故か今日は深く追求したかった。
これから同居するから、その人の事が知りたくて?
その理由は胸にしっくり来なかったが、それ以外の答えが浮かばずにそう思う事にする。

「毎日・・・居ないわけじゃない・・・」
「(毎日暇なのに、毎日仕事はしないんだ)」
「うっ・・・なんだその目は!駄目人間なんかじゃないんだからなっ・・・俺が働いてるコンビニで、今アルバイトの数が多いからっ・・・」
「ククッ・・・・カイジさん、言い訳っぽいよ」
「本当だからっ!とりあえず・・・今日は休みだ」
「明日は?」
「うっ・・・・・・・休み・・・・あ、明後日は仕事!」

必死に言葉を返したカイジは、思い出したかのようにバッと冷蔵庫を見る。そしてしまったという表情を浮かべた。

「食べ物が・・・・・」
「・・・ないの?」
「昨日買ったのは俺の分だけで・・・お金が・・・・」

居心地が悪そうにカイジが言えば、アカギは小さく笑みを浮かべた。

「雀荘に行けばいい」
「え・・・・・?」
「むしれるだけむしって来ようよ、カイジさん・・・・」
「で、でも俺負けても払えるお金がっ・・・・」
「カイジさん最初から負ける気でいるの?」
「うっ・・・・でも、・・・やっぱり駄目だ!博打は駄目っ・・・それにアカギ、お前はまだ中学生なんだから、そんな事言っちゃ駄目っ・・・!」
「でもお金はどうするの?カイジさん、今素寒貧なんでしょ?」
「それは・・・俺がどうにかする。だからアカギは何も考えなくていいぞ」

カイジはニヘラと笑い、トーストの最後の一口を口へ放り込んだ。アカギは納得のいかない表情だったが、何も言わずにテレビに視線を移す(後ろでほっと息を吐いたカイジの気配を感じた)。テレビに映される画面は、昭和から急激な進化をとげた大都市の映像だった。

「・・・カイジさん、散歩に行きたい」
「え?・・・あぁ、そっか。アカギは昭和から来たんだもんな・・・散歩はいいけれど、迷子にならないようにな!」
「カイジさん・・・俺子供じゃないんだから」

普段受けないような扱いをされて、どう反応すればいいか困りながら苦笑する。なんだか、カイジさんの側に居ると気が緩む・・・
少しだけ緩んでしまった頬をそのままに、玄関で靴を履く。

「あ、アカギ!」
「?」
「はい、これお小遣い。少ないけれど、何かあったら使ってくれ」
「・・・・・うん」

手渡された1000円をポケットへ突っ込む。ますます頬は緩んでしまったけれど、照れくさくてありがとうが言えない。だがカイジは嬉しそうなアカギを見て、そんな事を言われなくても満足そうに笑っていた。

静かに家を出て行ったアカギの背を見送った後、カイジは急いでカレンダーを見る。コンビニのバイトを入れている数はかなり少ない・・・アカギには俺がどうにかするだなんて、格好つけて言ってしまったが・・・・

「(無理っ・・・バイトの数増やさないと絶対無理・・・!)」

実はかなり焦っていた。
アカギにはバレていそうだが、多分バレていない・・・!と、思う・・・・・・。とにかく、カイジは焦っていた。今からバイトの数を増やしたいとも思うが、今月はもうコンビニのバイトは増やせないだろう。来月からだ。じゃあ今月はどうする・・・?

「(借金を少しずつ返しながら、残りを生活費と食事代にする・・・今までは1人だったからどうにかなったけど・・・アカギがいる)」

1人増えるのは大して痛手じゃないと思ったが、やはり大変だ。だからと言ってアカギを邪魔に思っているわけではない。アカギだってきっと心配だろう。お金の事や、自分の時代にいつ帰る事が出来るか・・・とか。俺が逆の立場なら、心配だから。

「アカギが言ってた通り、博打で一発・・・いやいや、駄目だろ俺・・・!」

でももし・・・もし一発当てれば、今月の生活費に困る心配はない。それに今月だけ凌げばいい。だからそんな大金を賭けなくても、ほんの少し・・・少しだけ・・・。

「(でも遠藤さんに相談しても大金がかかった博打しか紹介してくれないだろうし、ここはやっぱりパチンコとか・・・)」

しかしパチンコはこの間負けたばっかりだ。(その所為で素寒貧になったんだから救えない)結局は「あー」っと声を発しながら床に転がり、ぐた・・・ぐた・・・する嵌めになった。


「ただいま・・・カイジさん、なんでこんな所で寝てるの」

外から帰ってきたアカギが見たのは、点けっぱなしのテレビの前でぐたっと身体を曲げたまま器用に寝ているカイジがいた。

結局お金を手に入れる方法が考えつかなかったカイジでした。アカギに手渡したお小遣いは、本の間に隠していたへそくりって所です・・・かね・・・。
自分自身この連載を書いていて気づいたのですが、時空軸がはっきりしていないっていう大変な事態。(時空軸?)坊ちゃんを出したいけれど、それじゃ堕天録までいってしまい、麗しき店長が出せないっていう・・・ね・・・orz ここはもう、関係なく坊ちゃんも店長も出しちゃっていいかな(どき・・・どき・・・)