※ 日常

人は人だ。それはどう足掻こうと変わらない事だし、変わる事など出来ない。それは自分という個体も同じで、どんなに頑張ろうとも俺は俺だ。それに何か別なものに変わりたいと思う事も無い。


「絶対に、変わらないのに・・・・・・」


俺は鏡越しに自分を見つめていた。夢から覚める方法は、在り来たりだが自分に刺激を与える事だ。だから容赦なく自分の頬をグーッと引っ張ってみる。痛い。ただ痛いだけで、何も変わらない。


「なんで・・・どうして・・・!」


今の状況を軽くスルーし、特に何も考えずに過ごせるほど俺は出来た人間じゃない。というより、こんな状況になって冷静で居られる人物なんているはずがない。居るとすれば、どこか頭のネジが飛んでいる電波野郎くらいだろう。とにかく俺はもう1度頬を引っ張っる。その後さらにオマケにつねってもみる。
夢なら覚めろ・・・覚めてくれ・・・!
しかし、やはりただ痛いだけだった。頬は赤くなったし、カイジに訪れたのは絶望感だけだった。自分の感情と同じように、頭上のものがシュン・・・とうな垂れる。それを見てカイジは再び絶望感を味わった。


「最低だっ・・・!」
「よぉカイジ、・・・・・ッ!?・・・・・なに、猫耳プレイにでもハマッてんの?」
「っ?!か、和也!!!」
「うぉっ!なんだよ突然抱きついて来て誘ってんのか?」
「馬鹿!」


突然の訪問者は和也だった。いつも自分の好きな時間に来るから、突然来る事にも慣れたがこのタイミングは最悪なのか良かったのか。突然頭上に生えてしまった猫耳の対処方法が全く分からないカイジにとっては、和也が救世主に見えた。


「どうしよう和也!!これ・・・これ、生えてるんだよ・・・!」
「ハッ カイジらしくない言い訳だな?猫プレイしたかったんなら言えば良いのによ」
「違う!い、いいから・・・触ってみろよ・・・」


カイジの言葉に小さく鼻で笑った和也だが、真剣なカイジの表情に肩をすくめて見せた。そしてゴツゴツとした手を伸ばして、その耳にそっと触れる。ビクッとカイジの身体が揺れ、不安げに和也を見上げていた。


「・・・な、生えてんだろ・・・?」
「んー・・・・・」
「ッ?!い、痛ぇよ和也!!ひっぱんじゃねぇ・・・!」
「キキキ、まじだ。本当に生えてるな」


ムニムニと揉むように触られて、思わず身体が跳ねあがってしまったカイジは和也からさっと距離を置く。その様子を見て和也は「警戒心むき出しの猫みてぇ」と笑った。


「これどうにか取れないか・・・?帝愛で解毒剤とかないのかよ!」
「うちはまだそういう薬開発はしてないから、耳を取る方法は分からねぇよ」
「まだって・・・作る気かよ」
「アダルト関係の物って案外売れるもんだぜ?」


カカカ!と笑う和也だったが、カイジは笑っても居られなかった。
帝愛ならば色々な事をやってそうだから、解決方法があるかも知れないと思ったが・・・帝愛で分からないのであれば、どうすればいいのか。突然生えてたから原因も不明。このままではバイトに行く事も出来なければ、普段生活するのにも苦労してしまう。


「くそっ・・・!なんでこんな物が・・・」
「せっかくだし猫耳プレイする?こんな珍しい姿、今後見れない可能性もあるし」
「馬鹿っ!!そんな事より早く解決方法を見つけないと・・・」
「じゃあバイト止めてさーオレん家来て、オレ専用の黒服になれば?」
「御断りだ!それなら一生懸命解決方法を考える・・・!」
「・・・・あ、そんなに耳が嫌ならさ」


和也は少し考えるふりをした後、ニタリと悪い笑みを浮かべる。絶対にろくな事を考えてないと分かったカイジは、ゆっくりと和也との距離を広げていく。しかし部屋が部屋なだけに、逃げ場もなければ身を隠す場所もない。


「切り落としちまうのが1番なんじゃね?カカカ!1度人間の耳の方、落としてるしさ」
「や、や・・・め・・・・」


和也は完全に楽しんでいるようだ。だってコイツ、サディストだから・・・!
いつの間にか取り出したナイフを右手に握り、じわりじわりと近づいてくる。


「じょ・・・冗談だろ?」
「カカカ!俺の性癖知ってんのに、そんな事言うのか?」
「待てって!いいよ、自然に消えるの待つから・・・!」
「遠慮すんなってカイジー」
「ちょっ・・・ホントに、やめ・・・・・・!ッ?!」













「ッ―――ぁあ?!」


声を上げながら飛び起きた。身体はぐっしょりと汗をかき息は酷く乱れている。隣を見れば、眠そうに目を擦っている和也が不機嫌そうな声を漏らした。


「うるせーよカイジ・・・」
「はっ・・・ゆ、夢・・・・・・!」


なんて酷い夢を見てたんだ。それに和也に耳を切られる寸前で起きるなんて、なんだか少しリアルで心拍数が上がりっぱなしだ。俺は深呼吸を1つした後、ゆっくりと上半身を起こす。


「・・・嫌な夢だった・・・」
「カイジ」
「あ?」





「その頭の上のやつ・・・・・何?」


時が一瞬、止まったような気がした。



怖い夢と残酷な現実